う事なしに小さな皮肉な笑いを口びるの所に浮かべていた。
寝台の下に押し込んである平べったいトランクを引き出して、その中から浴衣《ゆかた》を取り出していると、ノックもせずに突然戸をあけたものがあった。葉子は思わず羞恥《しゅうち》から顔を赤らめて、引き出した派手《はで》な浴衣を楯《たて》に、しだらなく脱ぎかけた長襦袢《ながじゅばん》の姿をかくまいながら立ち上がって振り返って見ると、それは船医だった。はなやかな下着を浴衣の所々からのぞかせて、帯もなくほっそりと途方に暮れたように身を斜《しゃ》にして立った葉子の姿は、男の目にはほしいままな刺激だった。懇意ずくらしく戸もたたかなかった興録もさすがにどぎまぎ[#「どぎまぎ」に傍点]して、はいろうにも出ようにも所在に窮して、閾《しきい》に片足を踏み入れたまま当惑そうに立っていた。
「飛んだふうをしていまして御免くださいまし。さ、おはいり遊ばせ。なんぞ御用でもいらっしゃいましたの」
と葉子は笑いかまけたようにいった。興録はいよいよ度を失いながら、
「いゝえ何、今でなくってもいいのですが、元のお部屋のお枕《まくら》の下にこの手紙が残っていましたの
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