ようぼう》――骨細《ほねぼそ》な、顔の造作の整った、天才|風《ふう》に蒼白《あおじろ》いなめらかな皮膚の、よく見ると他の部分の繊麗な割合に下顎骨《かがっこつ》の発達した――までどこか葉子のそれに似ていたから、自意識の極度に強い葉子は、自分の姿を木部に見つけ出したように思って、一種の好奇心を挑発《ちょうはつ》せられずにはいなかった。木部は燃えやすい心に葉子を焼くようにかきいだいて、葉子はまた才走った頭に木部の面影を軽く宿して、その一夜の饗宴《きょうえん》はさりげなく終わりを告げた。
 木部の記者としての評判は破天荒《はてんこう》といってもよかった。いやしくも文学を解するものは木部を知らないものはなかった。人々は木部が成熟した思想をひっさげて世の中に出て来る時の華々《はなばな》しさをうわさし合った。ことに日清戦役という、その当時の日本にしては絶大な背景を背負っているので、この年少記者はある人々からは英雄《ヒーロー》の一人《ひとり》とさえして崇拝された。この木部がたびたび葉子の家を訪れるようになった。その感傷的な、同時にどこか大望《たいもう》に燃え立ったようなこの青年の活気は、家じゅうの人々
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