かさ》にかかりながら、それでいて良人から独立する事の到底できない、いわば心《しん》の弱い強がり家《や》ではないかしらんというのだった。葉子は今後ろ向きになった田川夫人の肩の様子を一目見たばかりで、辞書でも繰り当てたように、自分の想像の裏書きをされたのを胸の中でほほえまずにはいられなかった。
「なんだか話が混雑したようだけれども、それだけいって置いてください」
ふと葉子は幻想《レェリー》から破れて、古藤のいうこれだけの言葉を捕えた。そして今まで古藤の口から出た伝言の文句はたいてい聞きもらしていたくせに、空々《そらぞら》しげにもなくしんみり[#「しんみり」に傍点]とした様子で、
「確かに……けれどもあなたあとから手紙ででも詳しく書いてやってくださいましね。間違いでもしているとたいへんですから」
と古藤をのぞき込むようにしていった。古藤は思わず笑いをもらしながら、「間違うとたいへんですから」という言葉を、時おり葉子の口から聞くチャームに満ちた子供らしい言葉の一つとでも思っているらしかった。そして、
「何、間違ったって大事はないけれども……だが手紙は書いて、あなたの寝床《バース》の枕
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