しょう」
といってさすがに苦しげに笑いにまぎらそうとした。そのくせ木村の胸にはどっしり[#「どっしり」に傍点]と重そうな金鎖がかかって、両手の指には四つまで宝石入りの指輪がきらめいていた。葉子は木村のいう事を聞きながらその指に目をつけていたが、四つの指輪の中に婚約の時取りかわした純金の指輪もまじっているのに気がつくと、自分の指にはそれをはめていなかったのを思い出して、何くわぬ様子で木村の膝《ひざ》の上から手を引っ込めて顎《あご》までふとんをかぶってしまった。木村は引っ込められた手に追いすがるように椅子《いす》を乗り出して、葉子の顔に近く自分の顔をさし出した。
「葉子さん」
「何?」
また Love−scene か。そう思って葉子はうんざり[#「うんざり」に傍点]したけれども、すげなく顔をそむけるわけにも行かず、やや当惑していると、おりよく事務長が型ばかりのノックをしてはいって来た。葉子は寝たまま、目でいそいそと事務長を迎えながら、
「まあようこそ……先ほどは失礼。なんだかくだらない事を考え出していたもんですから、ついわがままをしてしまってすみません……お忙しいでしょう」
というと、事務長はからかい[#「からかい」に傍点]半分の冗談をきっかけ[#「きっかけ」に傍点]に、
「木村さんの顔を見るとえらい事を忘れていたのに気がついたで。木村さんからあなたに電報が来とったのを、わたしゃビクトリヤのどさくさ[#「どさくさ」に傍点]でころり[#「ころり」に傍点]忘れとったんだ。すまん事でした。こんな皺《しわ》になりくさった」
といいながら、左のポッケットから折り目に煙草《たばこ》の粉がはさまってもみくちゃ[#「くちゃ」に傍点]になった電報紙を取り出した。木村はさっき葉子がそれを見たと確かにいったその言葉に対して、怪訝《けげん》な顔つきをしながら葉子を見た。些細《ささい》な事ではあるが、それが事務長にも関係を持つ事だと思うと、葉子もちょっとどぎまぎ[#「どぎまぎ」に傍点]せずにはいられなかった。しかしそれはただ一瞬間だった。
「倉地さん、あなたはきょう少しどうかなすっていらっしゃるわ。それはその時ちゃん[#「ちゃん」に傍点]と拝見したじゃありませんか」
といいながらすばやく[#「すばやく」に傍点]目くばせすると、事務長はすぐ何かわけがあるのを気取《けど》ったらし
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