ラは自分で知らなかった自分の秘密をその時フランシスによって甫《はじ》めて知った。長い間の不思議な心の迷いをクララは種々《いろいろ》に解きわずらっていたが、それがその時始めて解かれたのだ。クララはフランシスの明察を何んと感謝していいのか、どう詫《わ》びねばならぬかを知らなかった。狂気のような自分の泣き声ばかりがクララの耳にやや暫らくいたましく聞こえた。
「わが神、わが凡《すべ》て」
また長い沈黙がつづいた。フランシスはクララの頭に手を置きそえたまま黙祷《もくとう》していた。
「私の心もおののく。……私はあなたに値しない。あなたは神に行く前に私に寄道した。……さりながら愛によってつまずいた優しい心を神は許し給うだろう。私の罪をもまた許し給うだろう」
かくいってフランシスはすっと立上った。そして今までとは打って変って神々《こうごう》しい威厳でクララを圧しながら言葉を続けた。
「神の御名《みな》によりて命ずる。永久《とこしえ》に神の清き愛児《まなご》たるべき処女《おとめ》よ。腰に帯して立て」
その言葉は今でもクララの耳に焼きついて消えなかった。そしてその時からもう世の常の処女ではな
前へ
次へ
全33ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング