く光の中に投げ出された。芝生も泥の海ももうそこにはなかった。クララは眼がくらみながらも起き上がろうともがい[#「もがい」に傍点]た。クララの胸を掴んで起させないものがあった。クララはそれが天使ガブリエルである事を知った。「天国に嫁《とつ》ぐためにお前は浄《きよ》められるのだ」そういう声が聞こえたと思った。同時にガブリエルは爛々《らんらん》と燃える炎の剣をクララの乳房の間からずぶり[#「ずぶり」に傍点]とさし通した。燃えさかった尖頭《きっさき》は下腹部まで届いた。クララは苦悶の中《うち》に眼をあげてあたりを見た。まぶしい光に明滅して十字架にかかった基督《キリスト》の姿が厳かに見やられた。クララは有頂天になった。全身はかつて覚えのない苦しい快い感覚に木の葉の如《ごと》くおののいた。喉《のど》も裂け破れる一声に、全身にはり満ちた力を搾《しぼ》り切ろうとするような瞬間が来た。その瞬間にクララの夢はさめた。
 クララはアグネスの眼をさまさないようにそっ[#「そっ」に傍点]と起き上って窓から外を見た。眼の下には夢で見たとおりのルフィノ寺院が暁闇《あかつきやみ》の中に厳かな姿を見せていた。クララは扉
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