《ゆううつ》に、或る時は乱暴に、或る時は機嫌よくした。その日の酒は勿論《もちろん》彼れを上機嫌にした。一緒に飲んでいるものが利害関係のないのも彼れには心置きがなかった。彼れは酔うままに大きな声で戯談口《じょうだんぐち》をきいた。そういう時の彼れは大きな愚かな子供だった。居合せたものはつり込まれて彼れの周囲に集った。女まで引張られるままに彼れの膝に倚《よ》りかかって、彼れの頬《ほお》ずりを無邪気に受けた。
「汝《われ》がの頬に俺《おら》が髭《ひげ》こ生《お》えたらおかしかんべなし」
彼れはそんな事をいった。重いその口からこれだけの戯談が出ると女なぞは腹をかかえて笑った。陽《ひ》がかげる頃に彼れは居酒屋を出て反物屋《たんものや》によって華手《はで》なモスリンの端切《はぎ》れを買った。またビールの小瓶《こびん》を三本と油糟《あぶらかす》とを馬車に積んだ。倶知安《くっちゃん》からK村に通う国道はマッカリヌプリの山裾《やますそ》の椴松帯《とどまつたい》の間を縫っていた。彼れは馬力の上に安座《あぐら》をかいて瓶から口うつしにビールを煽《あお》りながら濁歌《だみうた》をこだま[#「こだま」に傍点
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