きに結んで美しい狐色に変った。
「こんなに亜麻をつけては仕様《しよう》がねえでねえか。畑が枯れて跡地には何んだって出来はしねえぞ。困るな」
ある時帳場が見廻って来て、仁右衛門にこういった。
「俺《お》らがも困るだ。汝《わ》れが困ると俺らが困るとは困りようが土台ちがわい。口が干上《ひあが》るんだあぞ俺《おら》がのは」
仁右衛門は突慳貪《つっけんどん》にこういい放った。彼れの前にあるおきて[#「おきて」に傍点]は先ず食う事だった。
彼れはある日亜麻の束を見上げるように馬力に積み上げて倶知安《くっちゃん》の製線所に出かけた。製線所では割合に斤目《はかり》をよく買ってくれたばかりでなく、他の地方が不作なために結実がなかったので、亜麻種《あまだね》を非常な高値《たかね》で引取る約束をしてくれた。仁右衛門の懐の中には手取り百円の金が暖くしまわれた。彼れは畑にまだしこたま残っている亜麻の事を考えた。彼れは居酒屋に這入《はい》った。そこにはK村では見られないような綺麗《きれい》な顔をした女もいた。仁右衛門の酒は必ずしも彼れをきまった型には酔わせなかった。或る時は彼れを怒りっぽく、或る時は悒鬱
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