降りつづける雨に草木も土もふやけ切って、空までがぽとり[#「ぽとり」に傍点]と地面の上に落ちて来そうにだらけていた。面白くない勝負をして焦立《いらだ》った仁右衛門の腹の中とは全く裏合せな煮《に》え切《き》らない景色だった。彼れは何か思い切った事をしてでも胸をすかせたく思った。丁度自分の畑の所まで来ると佐藤の年嵩《としかさ》の子供が三人学校の帰途《かえり》と見えて、荷物を斜《はす》に背中に背負って、頭からぐっしょり[#「ぐっしょり」に傍点]濡れながら、近路《ちかみち》するために畑の中を歩いていた。それを見ると仁右衛門は「待て」といって呼びとめた。振向いた子供たちは「まだか」の立っているのを見ると三人とも恐ろしさに顔の色を変えてしまった。殴りつけられる時するように腕をまげて目八分の所にやって、逃げ出す事もし得ないでいた。
「童子連《わらしづれ》は何条《なじょう》いうて他人《ひと》の畑さ踏み込んだ。百姓の餓鬼《がき》だに畑のう大事がる道知んねえだな。来《こ》う」
仁王立《におうだ》ちになって睨《にら》みすえながら彼れは怒鳴《どな》った。子供たちはもうおびえるように泣き出しながら恐《お》ず
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