いてであった。一反歩二円二十銭の畑代はこの地方にない高相場であるのに、どんな凶年でも割引をしないために、小作は一人として借金をしていないものはない。金では取れないと見ると帳場は立毛《たちけ》の中《うち》に押収してしまう。従って市街地の商人からは眼の飛び出るような上前《うわまえ》をはねられて食代《くいしろ》を買わねばならぬ。だから今度地主が来たら一同で是非とも小作料の値下を要求するのだ。笠井はその総代になっているのだが一人では心細いから仁右衛門も出て力になってくれというのであった。
「白痴《こけ》なことこくなてえば。二両二貫が何|高値《たか》いべ。汝《われ》たちが骨節《ほねっぷし》は稼《かせ》ぐようには造ってねえのか。親方には半文の借りもした覚えはねえからな、俺らその公事《くじ》には乗んねえだ。汝《われ》先ず親方にべなって見べし。ここのがよりも欲にかかるべえに。……芸もねえ事《こん》に可愛《めんこ》くもねえ面《つら》つんだすなてば」
仁右衛門はまた笠井のてかてかした顔に唾をはきかけたい衝動にさいなまれたが、我慢してそれを板の間にはき捨てた。
「そうまあ一概にはいうもんでないぞい」
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