をかこんでまた飲みながら打解けた馬鹿話をした。仁右衛門が自分の小屋に着いた時には十一時を過ぎていた。妻は燃えかすれる囲炉裡火に背を向けて、綿のはみ出た蒲団《ふとん》を柏《かしわ》に着てぐっすり寝込んでいた。仁右衛門は悪戯者《いたずらもの》らしくよろけながら近寄ってわっといって乗りかかるように妻を抱きすくめた。驚いて眼を覚した妻はしかし笑いもしなかった。騒ぎに赤坊が眼をさました。妻が抱き上げようとすると、仁右衛門は遮《さえぎ》りとめて妻を横抱きに抱きすくめてしまった。
 「そうれまんだ肝《きも》べ焼けるか。こう可愛《めんこ》がられても肝べ焼けるか。可愛《めんこ》い獣物《けだもの》ぞい汝《われ》は。見ずに。今《いんま》にな俺《お》ら汝に絹の衣装べ着せてこすぞ。帳場の和郎《わろ》(彼れは所きらわず唾《つば》をはいた)が寝言べこく暇に、俺ら親方と膝つきあわして話して見せるかんな。白痴奴《こけめ》。俺らが事誰れ知るもんで。汝《わり》ゃ可愛いぞ。心から可愛いぞ。宜《よ》し。宜し。汝ゃこれ嫌いでなかんべさ」
といいながら懐から折木《へぎ》に包んだ大福を取出して、その一つをぐちゃぐちゃに押しつぶして息
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