な》に、今にも又、不公平な運命の災厄《さいやく》がこの身の上に落ちかゝりはしないかと怖《お》ぢ恐れ、維持力がなくなるのであつた。
 暑中休暇が来て山の家に帰つた五日目、それのみ待たされた成績通知簿が届いた。三四の科目のほか悉《こと/″\》く九十点を取つてゐるのに、今度から学期毎に発表記入されることになつた席次は九十一番だつた。私はがつかりした。私は全く誰かの言葉に違《たが》はず、確かに低能児であると思ひ、もう楽しみの谷川の釣も、山野の跋渉《ばつせふ》も断念して、一と夏ぢゆう欝《ふさ》ぎ切つて暮した。九月には重病人のやうに蒼《あを》ざめて寄宿舎に帰つた。私はどうも腑《ふ》に落ちないので、おそる/\川島先生に再検査を頼むと九番であつたことが分つた。「君は悔悛《くわいしゆん》して勉強したと見えて、いゝ成績だつた」と、初めてこぼれるやうな親しみの笑顔を見せた。私は狂喜した。かうした機会から川島先生の私への信用は俄《にはか》に改まつた。私の度重なる怨《うら》みはたわいなく釈然とし、晴々として翼でも生えてひら/\とそこら中を舞ひ歩きたいほど軽い気持であつた。一週日経つてから一級上の川島先生の乱暴な
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