やつた。或日私は堪りかねて催促がましい口を利くと、明日はS社で二百兩借りて來いと命じたので、斷じて出來ませんと答へるとZ・K氏は少時《しばらく》私をぢつと見据ゑたが、くそ垂れ! 手前などと酒など飮む男かよ、Z・Kともあらう男が! と毒吐《どくづ》き出して、折から夫人が怫然《ふつぜん》と色を爲した私に吃驚《びつくり》して、仲裁を頼みに酒屋の爺さんを呼びに行つて、小腰をかゞめてチヨコチヨコ遣つて來た爺さんが玄關を上るなり、Z・K氏は、爺さん/\、僕この小僧つ子に馬鹿にされたよと言つた。私はお叩頭《じぎ》ひとつして默つて退いた。C雜誌の若い記者が、この角を曲るとめそ/\泣けて來ると言つたその杉籬《すぎがき》に添つた曲り角まで來ると、私も思はず不覺の涙を零《こぼ》した。が私はこゝで、一簣《いつき》にして止めてはならぬ。
 肚《はら》の蟲を殺して翌日は午前に出向くと、Z・K氏は大層喜んで、君昨夜は失敬、僕醉拂つてゐたもので、それにしても好く來てくれましたと丁寧に詫びて、夫人に向つて、これ/\、酒屋の爺さんにKさん來てくれたことを傳へて來い、爺さんひどく氣遣つてゐたから、と言付けた。夫人があたふた
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