ゞ言葉は絶え果てる。何うにもして見ようなきわれわれを憐れみ給ふ廣大なお慈悲であつたのか。僕は、まだまだ人生に失望すべきではなかつた!」
と、私は或種の信念の踊躍を覺え、絶えて久しいお念佛を口に出して、息を呑み息を吐いた。
「あなた、あの親王樣のお召物といふのは、あれをほんたうに着てゐられたのでせうか。わたし、どうも信じられませんの。」
「そんなことが分るものか、馬鹿。」
「一體、どういふ譯で牢屋へお入りになるやうになつたのですかね?」
「馬鹿だなあ。それを知らんのか。女學校の時、歴史で教はつた筈ぢやないの。」
「もう學校を出てからずゐぶんになるものですから、忘れましたの。同窓會の時は、いつでも安藤先生が、琵琶を彈いて十八番の護良親王を歌はれるのを、度々聞かされたのですけど……」
「馬鹿だね。やつぱし、學問してない奴は、駄目、駄目。」
「そんなに馬鹿々々おつしやらずに、話して下さればいいぢやありませんか。忘れたものは仕樣がないんですもの。」
私達は口爭ひを始めたが、鳥居の前に、先刻、十一時半には鎌倉驛前から迎へに來ると車掌の言つた自動車が、もう客を待つてゐたので、急いで行つて乘つた。
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