会ふのは考へもんやないかなア。」と、源太郎も思案に余つた。

       九

 日本橋の詰で、叔父を終夜運転の電車に乗せて、子供の多い上町《うへまち》の家へ帰してから、お文は道頓堀でまだ起きてゐた蒲鉾《かまぼこ》屋に寄つて、鱧《はも》の皮を一円買ひ、眠さうにしてゐる丁稚《でつち》に小包郵便の荷作《につくり》をさして、それを提げると、急ぎ足に家へ帰つた。
 三畳では母のお梶がまだ寝付かずにゐるらしいので、鱧の皮の小包を窃《そつ》と銀場の下へ押し込んで、下の便所へ行つて、電燈の栓を捻ると、パツとした光の下に、男女二人の雇人の立つてゐる影を見出した。
「また留吉にお鶴やないか。……今から出ていとくれ。この月の給金を上げるよつて。……お前らのやうなもんがゐると、家中の示しが付かん。」
 寝てゐる雇人等が皆眼を覚ますほどの声を立てて、お文は癇癪《かんしやく》の筋をピク/\と額に動かした。
「何んやいな、今時分に大けな声して。……兎も角|明日《あした》のことにしたらえゝ。」と、お梶が寝衣《ねまき》姿で寒さうに出て来たのを機会《しほ》に、二人の雇人は、別れ/\に各の寝床へ逃げ込んで行つた。
 ま
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