皮、細う切つて、二杯酢にして一晩ぐらゐ漬けとくと、温飯《ぬくめし》に載せて一寸いけるさかいな。」と、源太郎は長い手紙を巻き納めながら、暢気《のんき》なことを言つた。
五
堺の大浜に隠居して、三人の孫を育ててゐるお梶《かぢ》が、三歳になる季《すゑ》の孫を負つて入つて来た。
「阿母《おか》アはん、好いとこへ来とくなはつた。をツ[#「をツ」に傍点]さんも来てはりますのや。」と、お文は嬉しさうな顔をして母を迎へた。
「お家《へ》はん、お出でやす。」と、男女の雇人中の古参なものは口々に言つて、一時「気を付けツ」といつたやうな姿勢をした。
「あばちやん、ばア。母アちやん、ばア。ぢいちやん、ばア。」と、お梶は歌のやうに節を付けて背中の孫に聞かせながら、ズウツと源太郎の胡坐《あぐら》をかいてゐる三畳へ入つて行つた。
背中から下された孫は、母の顔を見ても、大叔父の顔を見ても、直ぐベソをかいて、祖母の懐に噛《かじ》り付いた。
「あゝ辛度《しんど》や。」と疲れた状《さま》をして、薄くなつた髪を引ツ詰めに結《ゆ》つた、小さな新蝶々の崩れを両手で直したお梶は、忙しさうに孫を抱き上げて、萎《
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