助けた効によって、褒状《ほうじょう》を貰いました。その褒状は仏壇の抽出の奥の方にしまい込《こ》んで置いて、もう忘れて了《しま》っていたのでした。
 為吉は奥の仏間へ駆けて行って、その褒状を出して来ました。厚い鳥《とり》の子紙《こがみ》に、墨色も濃く、難破船を救助したことは奇特の至りだという褒《ほ》め言葉《ことば》が書いてありました。そして終りに××県知事|従《じゅ》五位勲四等△△△△と、その下に大きな四角な印《いん》を押してありました。
「それから後《のち》には、もう、そんなことはなかったかね?」と為吉は尋ねました。
「漁舟なんかお前、一年に二艘や三艘打ちあげられるけれど、あんなことはなかったよ。」
 父親は、眼をつぶって、昔を思い出している様子でした。

        二

 それから間もなく為吉は再び浜へ下りて行《ゆ》きました。入江には小さな漁舟が五六|艘《そう》、舷《ふなべり》を接してつながれていました。かすかな浪《なみ》が船腹をぴたぴたと言わせていました。夏の暑い日の午後で、丁度昼寝時だったので、浜には誰《だれ》もおらず、死んだように静かでした。ただ日盛りの太陽が熱そうに岩の
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