上に照りかえしているばかりでした。大分《だいぶ》離れた向うの方の入江に子供が五六人海水浴をしていましたが、為吉が、ここに来ていることに気がつきませんでした。
 為吉は暫《しばら》く岸に立って沖を眺《なが》めていましたが、やがて一番左の端《はし》の自分の家《うち》の舟の纜《ともづな》を引っ張って飛び乗りました。船が揺れた拍子に、波のあおり[#「あおり」に傍点]を食って、どの舟も一様にゆらゆらと小さな動揺を始めました。為吉は舳《へさき》へ行って、立ったまま沖を眺めました。
「矢張《やっぱ》り白山《はくさん》が見える!」
 こう彼は口の中でつぶやきました。青い海と青い空との界《さかい》に、同じような青の上に、白い薄いヴェールを被《かぶ》ったような、おぼろげな霞《かす》んだ色に、大きな島のように浮んでいました。白い雲が頂《いただき》の方を包んでいました。
 為吉は心をおどらせました。白帆が二つ三《みっ》つその麓《ふもと》と思われるところに見えました。じっと見つめていると、そこから大風《おおかぜ》が吹き起り、山のような大浪《おおなみ》が押し寄せて来そうな気がしました。あの白帆が、だんだんこちらへ
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