けを呼び求めている声が空耳に聞えて来るのでした。幾人《いくたり》も幾人《いくたり》も、細い悲しげな声を合せて、呼んでいるように為吉の耳に聞えました。何だか聞き覚えのある声のようにも思われました。一カ月|前《まえ》に難船して死んだ村の人達の声のような気もしました。為吉は身をすくめました。糸を引くような細い声は、絶えたかと思うと、また続きました。その声はどこか海の底か、空中かから来るような気がしました。為吉は一心になって耳をすましました。
いつの間にか入江の口にも波が立って来ました。自分の乗っている船腹に打ちつける潮《しお》のぴたぴたする音が高くなって、舟は絶えず、小さな動揺を続けました。
突然、恰《あだか》もこれから攻めよせて来る海の大動乱を知らせる先触れのよう、一きわ、きわだった大きな波が、二三|畝《うね》どこからともなく起って、入江の口へ押しよせました。それが次第に近寄って、むくむくと大蛇《だいじゃ》が横に這《は》うように舟の舳《へさき》へ寄って来たかと思うと、舳を並《なら》べていた小舟は一斉《いっせい》に首をもたげて波の上に乗りました。一|波《ぱ》また一|波《ぱ》、甚《はなはだ
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