》しい動揺と共に舷《ふなばた》と舷とが強く打ち合って、更に横さまに大揺れに揺れました。
「わあッ!」という叫び声がしたかと思うと、もう為吉の姿は舳に見えませんでした。最後の波は岸に打ちあげて、白い泡《あわ》を岸の岩の上に残して退きました。
 午後三時|頃《ごろ》の夏の熱い太陽が、一団の灰色雲の間からこの入江を一層《いっそう》暑苦しく照らしていました。鳶が悠々《ゆうゆう》と低い空を翅《かけ》っていました。

 夕暮方に、この浜には盛んな藁火《わらび》の煙があがりました。それは為吉の死骸《しがい》をあたためるためでした。為吉の父も母も、その死骸に取りすがって泣いていました。
 その頃から空が曇り、浪が高く海岸に咆哮《ほうこう》して、本当の大暴風《おおあらし》となって来ました。



底本:「赤い鳥傑作集」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年6月25日発行
   1974(昭和49)年9月10日29刷改版
   1989(平成元)年10月15日48刷
底本の親本:「赤い鳥」復刻版、日本近代文学館
   1968(昭和43)〜1969(昭和44)年
初出:「赤い鳥」
   1920(
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