かにつけて大人《おとな》のような考《かんがえ》を持っていました。神経質で始終何か考えてばかりいる子でした。
為吉はうつむいて前垂《まえだれ》の紐《ひも》をいじっていて暫《しばら》く答えませんでした。何か心の中で当てにして来たことが、ぴったり父の心に入らないで、話の気勢をくじかれたような気がしたのでした。そしてまだ自分の思うていたことを言わない先に、
「浜に誰《だれ》かおったか?」と父親に尋ねられて、いよいよ話が別の方へそれて行くのをもどかしいように情ないように感じました。
「誰もおらなんだ。」
「お前一人何していたい?」
「沖見とったの。」
「えい、そうか。」と父親は腑《ふ》に落ちぬ顔付をしましたが、深く尋ねようともしませんでした。
為吉はなおもじもじしていましたが、ふと思いついたように、
「暴風《しけ》になって来《こ》ぬかしら?」と言いました。
「なぜ? なりそうな様子かい?」と父親は不思議そうに尋ねました。
「白山が見えてるから。」
「白山が見えたって、お前。」
「それでも、暴風《しけ》になる時には、いつでも白山が見えるもの。」
父親は為吉が変なことを言うなと思いましたが、別
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