少年と海
加能作次郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)お父《とと》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|艘《そう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あおり[#「あおり」に傍点]
−−
一
「お父《とと》、また白山《はくさん》が見える!」
外から帰って来た為吉《ためきち》は、縁側に網をすいている父親の姿を見るや否や、まだ立ち止らない中にこう言いました。この為吉の言葉に何の意味があるとも思わない父親は、
「そうかい。」と一寸《ちょっと》為吉の方を見ただけで、
「どこに遊んでおった?」と手を休めもせずに言いました。
「浜に、沖見ていたの。」と為吉は縁側に腰掛け、「白山が見えとる。」ともう一度言いました。
父親は始めて手を休めて不思議そうに為吉の顔をしげしげと眺《なが》めました。そして、
「白山が見えりゃ何《なん》だい?」と優しく言いました。
父親はこの頃《ごろ》為吉が妙にふさいでばかりいるのが合点《がてん》がいかないのでした。為吉はまだ八《やっ》つでしたが、非常に頭のよい賢こい子で、何
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