と思うか考えて見い。無学な者ちゅう者は何にも分らんとって、一々聞きたがるもんじゃわい。分らいでも皆な読うで貰うと安心するというもんじゃわい。」と少し調子を変えて、「お前の所から来る手紙は、金を送って呉れって言うより外ね何もないのやれど、それでも一々浅七に初めから読ますのじゃ。それを聞いて己でも、お母さんでも心持よく思うのじゃ。」
「そりゃ私の手紙は言文一致《はなし》で、其儘《そのまま》誰が聞いても分る様に……」と皆まで言わぬ中に、
「もう宜い※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と父親は鋭く言い放った。そして其後何とも言わなかった。
 恭三は何とも言われぬ妙な気持になって尚お暫くたって居たが、やがて黙って自分の部屋へ行った。

   祭見物

「お父さんな、まだ帰らんのか。」と浅七は外から這入《はい》って来た。家の中は暗かった。囲炉裏《いろり》の中には蚊遣《かやり》の青葉松が燻《いぶ》って居た。
「まだや。」と母親は漬物を刻みながら無頓着に答えた。
「何ちゅう遅いな、皆もう帰ったのに。」
「もう間がないだろうよ。」と恭三は燃えかゝる松葉を火箸で押えながら言った。煙は部屋中になって居る。洋灯
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