いな娘だった。気立てもやさしく、する事なす事しっかりしていて、几帳面で、てきぱきした性質であった。だから人受けもよく、親たちにも愛せられていたようでもある。だが、いつの間にかこの叔母と私の父との仲が変になったようである。
 父はその頃、程近い海岸の倉庫に雇われて人夫の積荷|下荷《おろしに》をノートにとる仕事をしていたが、例によってなにかと口実をつけては仕事を休んでいた。そんな風だから私の家の暮し向きのゆたかである筈はなく、そのためであろう、母と叔母とは内職に麻糸つなぎをしていた。毎日毎日、母はそうして繋いだ三つか四つの麻糸の塊《たま》を風呂敷に包んで、わずかな工賃を貰いに弟を背負っては出かけるのだった。
 ところが不思議なことに、母が出かけるとすぐ、父は必ず、自分の寝そべっている玄関脇の三畳の間へ叔母を呼び込むのであった。別にたいして話をしているようでもないのに、叔母はなかなかその部屋から出て来ないのが常だった。私はこまちゃくれた好奇心にそそられないわけには行かなかった。私はついにあるとき、そっと爪立ちをして、襖の引手の破目から中を覗いて見た……。
 だが、私は別にそれ程驚かなかった。
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