家に引きとられた。その時は私たちは海岸に住んでいた。それは父の病後の保養もあり、弱い私の健康のためでもあったのである。
そこは横浜の磯子の海岸だった。私たちは一日じゅう潮水に浸ったり潮風に吹かれたりして暮した。そしてその時を境として、私の肉体は生れ変ったように健康になったということである。それは私を幸福にしたのだろうか、それとも、私を来るべき苦しみの運命に縛りつけるための、自然の悪戯《いたずら》であったのだろうか、私にはわからない。
私達の健康が恢復すると、私たちはまた引越した。それは横浜の街はずれの、四方を田に囲まれた、十四五軒一|叢《むら》のうちの一軒だった。そしてその家へ引越した冬のある雪の降る朝、私に初めての弟が生まれた。
私が六つの年の秋頃だった――その間私は、私たちの家がむやみに引越したということだけしか覚えていない――私たちの家に、母の実家から母の妹が、だから私の叔母がやって来た。叔母は婦人病かなんか患っていたが、辺鄙な田舎では充分の治療が出来ないというので、私たちの家から病院に通うためだった。
叔母はその頃二十二、三であったろう。顔立ちの整った、ちょっとこぎれ
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