かいが今は女に向けられたのである。
もう秋だった。父は叔母のために、旅に立つ荷造りをし、私の家にあった一番上等の夜具までもその中に包みこんだ。
母は弟をおぶって私と一緒に叔母を見送った。
「お嫁入り前のあんたを裸にして帰すなんてほんとにすまない、だけど、これも運がわるいんだとあきらめて……」
母はいくたびかいくたびかこんなことを繰返して途々叔母に詫びた。その眼には涙さえ浮んでいた。
私たちは途中まで送って帰って来た。停車場まで送って行った父は夕方になって帰って来た。
ああなんという朗《ほが》らかな晩だったろう。子ども心にも私はほっと一安心した。静かな、静かな、平和な晩だ!! けれど、けれど、やがて私たちは余りにも静かな生活を余儀なくされなければならなかった。なぜなら、すぐその翌日だったか四、五日たってからだったか、父もまた私たちの家から姿をかくしたからであった。
「ああ、くやしい。二人は私たちを捨てて駈け落ちしてしまったんだ」
と母は歯を噛みしばっていった。
胸に燃ゆる憤怨《ふんえん》の情を抱きながら、藁しべにでもすがりつきたい頼りない弱い心で、私たちはそれから、二人の在
前へ
次へ
全22ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
金子 ふみ子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング