かせるのだった。
「ねえっ、いい子だからお前は、あすこのお師匠さんのところへ行ってることをうちに来る小父さんたちに話すんじゃないよ。それが他人《ひと》に知れるとお父さんが困るんだからね、いいかい」

 叔母の店は非常に繁昌したようである。がそれでいてすこしも儲《もう》けがなかったようである。いや儲けがあったのかしれないけれど、なにぶん父が毎日お酒を呑んだり、はな[#「はな」に傍点]をひいたりしているのだからうまく行く筈はなかったのだろう。のみならず、父と叔母とはその頃、世間の噂にのぼるようなのぼせ方であったらしい。
 それでも叔母の家はまだよかった。困っていたのは私たち母と子であった。ある日の事である。私たちは何も食べるものがなかった。夕方になっても御飯粒一つなかった。そこで母は、私と弟とをつれて父を訪ねて行った。父はお友だちの家にいた。が、母がどんなに父に会いたいといっても父は出て来なかった。
 おそらく母はもう耐《こら》えきれなかったのだろう。いきなりその家の縁側から障子をあけて座敷に上った。明るいランプの下に、四、五人の男が車座に坐って花札をひいていた。
 母は憤《いきどお》りを
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