り上に私の遊び友だちが二人いた。二人とも私とおないどしの女の子で、二人は学校へあがった。海老茶の袴《はかま》をはいて、大きな赤いリボンを頭の横っちょに結びつけて、そうして小さい手をしっかりと握りあって、振りながら、歌いながら、毎朝前の坂道を降りて行った。それを私は、家の前の桜の木の根元にしゃがんで、どんなにうらやましい、そしてどんなに悲しい気持ちで眺めた事か。
 ああ、地上に学校というものさえなかったら、私はあんなにも泣かなくってすんだだろう。だが、そうすると、あの子供たちの上にああした悦びは見られなかったろう。
 むろん、その頃の私はまだ、あるゆる人の悦びは、他人の悲しみによってのみ支えられているということを知らなかったのだった。

 私は二人の友だちと一緒に学校に行きたかった。けれど行く事が出来なかった。私は本は読んでみたかった。字を書いてみたかった。けれど、父も母も一字だって私に教えてはくれなかった。父には誠意がなく、母には眼に一丁字もなかった。母が買物をして持って帰った包紙の新聞などをひろげて、私は、何を書いてあるのか知らないのに、ただ、自分の思うことをそれにあてはめて読んだも
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