を捨てるつもりで、そのためわざと籍を入れなかったのだとの事である。ことによるとこれは、父が叔母の歓心を得るためのでたらめの告白であったかもしれない。ことによるとまた、父のいわゆる光輝ある佐伯家の妻として甲州の山奥の百姓娘なんか戸籍に入れてはならぬと考えたのかもしれない。とにかく、そうした関係から、私は七つになる今までも無籍者なのであった。
 母は父とつれ添うて八年もすぎた今日まで、入籍させられないでも黙っていた。けれど黙っていられないのは私だった。なぜだったか、それは私が学校にあがれなかったことからであった。
 私は小さい時から学問が好きであった。で、学校に行きたいとしきりにせがんだ。あまりに責められるので母は差し当たり私を母の私生児として届けようとした。が、見栄坊の父はそれを許さなかった。
「ばかな、私生児なんかの届が出せるものかい。私生児なんかじゃ一生頭が上らん」
 父はこういった。それでいて父は、私を自分の籍に入れて学校に通わせようと努めるでもなかった。学校に通わせないのはまだいい。では自分で仮名の一字でも教えてくれたか。父はそれもしない。そしてただ、終日酒を飲んでは花をひいて遊
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