。火を焚いてみようと思って温泉の前に積んであった薪を小さく割って積み重ね、紙を燃して一生懸命に吹いてみたが、ちよっと燃えるだけですぐ消えて黒くなってしまう。ローソクも相当燃してみたが火力が弱いのか、やはり駄目であった。これまでの夏期の登山では雨が降ろうが、風が吹こうが、一日だって同じところに停まったことがなかったので、元日は今日も吹雪がつづくのではなかろうかと思って、一番心細かった。しかしこの日は、冬山は夏のようにはゆかないということがわかり、だいぶ落着いてきた。戸棚には宿泊人名簿とキングの古雑誌があったので、それを読んだりした。
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一月三日 快晴 温泉出発三・〇〇 夏沢峠五・〇〇 本沢温泉六・〇〇 夏沢峠八・〇〇 硫黄岳九・〇〇 横岳一〇・二〇 赤岳一一・一〇 夏沢峠一・四〇 夏沢温泉三・〇〇 上槻ノ木六・三〇
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夜中から星が光っている。八ヶ岳の頂きに立つ日がやってきたのではなかろうか、そう思うと何度も目が覚めてよく寝られない。早すぎると思ったが思い切って出発し、ランタンをたよりに峠へ急ぐ。峠ではまだ暗く風が強いので、シールをつけた
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