みる。道はよくわかるし危険と思われるようなところはない。スキーは昨日と同じく五寸くらい沈む、峠の頂きに雪が四尺ほど積っている。随分寒いのですぐ帰って蒲団の中に潜り込む。――今日は元日だ、町の人々は僕の最も好きな餅を腹一パイ食い、いやになるほど正月気分を味っていることだろう。僕もそんな気分が味いたい、故郷にも帰ってみたい、何一つ語らなくとも楽しい気分に浸れる山の先輩と一緒に歩いてもみたい。去年の関の合宿のよかったことだって忘れられない。それだのに、それだのに、なぜ僕は、ただ一人で呼吸が蒲団に凍るような寒さを忍び、凍った蒲鉾ばかりを食って、歌も唱う気がしないほどの淋しい生活を、自ら求めるのだろう。――
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一月二日 曇 温泉出発九・三〇 二五〇〇メートルくらいの地点一一・五〇 温泉帰着一・〇〇
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 今日もやはり天気が悪い。雪はあまり降ってはいないが風がなかなか強い。また峠へ行って硫黄岳の偃松帯まで登る。岳は霧や風と戦いの真最中で凄い音をたてている。一人では登る気にならない。トボトボ温泉へ引返す。近所にスキーを練習するような所はなし、しようがない
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