ろいろと小屋代の払いをすませて千垣についたときの彼は実に嬉しそうでした。千垣で電車を待つあいだ、Aが汽車の時間をしらべてみると南富山から富山駅へ行く富山鉄道がこんどの電車にうまく連絡しているので、いつも富山市電の遅いのに参っている彼は、これ幸いと直通切符を買って電車へ乗込みました。電車はなんらの事故もなく南富山へ着きました。早速Aは乗換えのため向い側の富山鉄道のプラットホームへ行きました。そこでAはしばらく待っていましたが、汽車がこないので変だなと思って改札口の方へ行って聞いてみると、「なんのことだ」汽車はつい先出たところだと言う。あまりのことに呆然としてしまった。なぜならこの次の富山発の汽車へ乗れなかったら、明日は会社に出ることができないからです。しかし「まだ時間はある。どうしてもその汽車に乗らなければならない」と思ったAは大あわてにあわてて富山市電に乗込みました。けれどもこの電車はそんなことはなんにも知らないので相変らず悠々としています。
 Aは、このときほど富山市電の遅いということを、つくづく感じたことはありませんでした。彼は車掌に駅までもう何十分かかるかと何度も訊ねたほどです。
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