五弘法
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朝起きて見ると白い雲が走っていて、ときどき青空が見える。雪もチラチラ降っている程度なので大丈夫と思って出かける。この雲は二〇〇〇メートル以下のもので、鏡石より上は快晴であった。思うにこれら雪雲は雪線について上下し、たいてい春秋は山頂附近に、冬は山麓に止まり、その附近に多く雪を降らすのであろう。天狗平の上は余り高く巻くと雪が堅く不愉快だ。室堂附近の積雪量は、一月と変らぬ。それとも風が強くてこれ以上は吹き飛ばされるのか。一ノ越から頂上までも一月と同様簡単に登れる。黒部谷をへだてて針ノ木―鹿島槍が雄大に見える。劔岳もまた凄く聳えている。風が強くなかなか寒い。写真を二枚撮って下る。
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十四日 晴 六・四〇発 一一・三〇―〇・一〇藤橋 二・三〇―三・〇〇芦峅 三・三〇千垣
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藤橋で水量を計っている組についていた芦峅《あしくら》の案内らしい人が僕に向って、君が一人で登ったので大変心配したと言った。僕の行動がまるで知らない人にまで心配をかけたのは全く恐縮の次第だった。それから発電所の方へ渡って例の雪崩の出るところ
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