ら休んで一日おってくれというのでしたが、気の小さい私にはどうしても会社を休むことができませんでした。
 その後父の病気はだんだん重くなって行くのになお山の恐ろしい力が私を誘惑する。それは前穂の北尾根と槍の北鎌尾根なので、一人では少々不安だ。そうかといって山にはなんらの興味ももっていない案内を連れて行くことは、遭難した場合のことを考えると気の弱い私にはちょっとできない。そう考えているときちらっと吉田君の顔が頭に浮んだ。吉田君は恐ろしく山に熱情をもっていて、山での死を少しも恐れてはいない。そのうえ岩登りが実にうまい。だから私は間もなく吉田君を誘惑してしまった。
 今冬は非常にお天気が悪かったためか、前穂北尾根には凍った箇所はなかったが、岩登りの下手な私がブレーキになったので、第三峰の左のチムニーで露営しなければならなかった。その晩はだいぶ吹雪かれたので、二人とも少なからず消耗した。吉田君は岩場で奮闘したため、手には凍った毛糸の手袋が一組残っているだけだった。翌日物凄い吹雪の中を前穂へ辿っているうち、とうとう吉田君は手の指を凍傷にしてしまった。奥穂の小屋へ帰ったとき、私は疲れはてて食物も吐出
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