したほどで、吉田君の手を摩擦してあげる元気がなかった。
 山を下ってから、吉田君は一カ月余も入院していた。私は吉田君のお父さんに「あんたと一緒だというから安心していましたが」といわれたとき、ほんとにすまないことをしてしまった。たった一人の心の迷いからこうまで多くの人々に心配をかけるとは、おおなんという恐ろしいことだろうとひどく胸を打たれてしまった。それ以来私の心はだんだん変って行った。また故郷の家からは、父の病気はますます重くなって行く、もうそう長くは生きておられないように思うといってきた。私もそう思ったのでもう山登りを止めよう。そしていろいろ心配をかけた不孝をお詫びし、今度こそはほんとにお父さんを安心させようと決心した。そして休暇の貰える日を一日千秋の思いで待っていた。
 六月も終り、故郷の町には川下祭という大祭のある一、二日前、急に暑くなったためか父はついに飲物さえ喉を通らなくなった。そしてもうすぐ私が見舞いにやってくるだろうと、私の兄がなぐさめても父は待ちくたびれたのか、会社の方が忙しいということだからもう帰ってこなくともよいと言っていたそうだが、間もなくものもいえなくなってしま
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