ス・ハーケンにものをいわせようが、あのような雪の壁など、どうして僕に登ることができよう。「やめようか」そう思ったけれど、せっかくここまでやってきたんだ。闘わずして退くなどはあまり残念だ。――そうだ。闘ってみよう。――全力をつくして闘った後なら頂上へ登れなくとも思い残すことはない。全力をつくして闘うところに価値があるのであって、頂上へ立つことのできるのはその副産物に過ぎないんだ。
 御殿場は太郎坊附近がスキー場になっているので、名古屋鉄道局管内ならスキー割引の切符が発売されているし、乗合自動車が馬返しまで行ってくれる。
 太郎坊はスキー客で相当賑かだった。午前九時早めの昼食をして、この日早朝出発した観測所の人々の後を追った。この附近で見た富士山は広々とした真白な斜面がどこまでもつづいていて、御殿場で感じた凄みはなく、平凡な山としか見えない。大急ぎに急いでやっと三合目の附近で皆に追いつき簡単に挨拶をした。そのとき、案内人らしい人が僕に「一人で――案内もつれないとは無謀ではありませんか」という。もっともだ。一年に数十万人も登る富士山にたった一度夏にきただけで、すぐ冬季にこころみるなど無謀に違
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