はひとしお賑かになった。僕の前にすわっている人が僕にどこへ行くのかと聞くので、富士山へ登る予定だといったら少なからず驚いて、君はどう欲目に見ても、富士山へなど登れそうにないという。もっともだ。この寒い冬の最中に上着も無く、カッター・シャツを着ただけであり、足には地下足袋を履いている僕を見ては誰だってそう思うだろう。それにこの人は汽車へ乗込んできたとき小声で「皆寝ていやがってすわるところもないや」とつぶやきながら立っていたほどだから、恐らく情の強い人なのだろう。僕のことを心から心配しているようだった。こういう人は将来損だと僕は思う。なぜならこの人は情が強いために他人が危地へ陥るのを助けようとして自分の力の全部をなげ出し、やがて自分が危地に落ちて行くに違いない。少なくとも他人の苦しむのを気にしているあいだは、今の世の中ではとても成功はできまい。
 御殿場の駅で見た富士山は僕の頭を圧して被いかぶさるようにつったった実に物凄い雪の壁だった。あの雪の壁が一度にどっと崩れてきたらどうしよう。どこにもかじりつけそうな岩尾根はないではないか。あんな凄い壁をどうして人は登るんだろう。せめて氷でもならアイ
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