大あわてにあわてて駅員から駅員と走り廻り、やっとそれが案内所の方へ忘れ物として廻してあることがわかったが、それを受取りに行って汽車に乗込むまでの忙しさといったら一通りや二通りではなかった。
さて汽車に乗込んでみると相当満員のうえ皆よく寝ている。とても僕にはそれを起す勇気は出ない。僕は闘志を強くするために山へ行くのだと思っていたが、どうしたわけか山へ深入りするほど闘志が弱くなっていくような気がする。人と人との闘いに負けて山へ逃げて行くのが現在の僕なのだろうか。
静岡のあたりだったか勇敢な人がたった一人できて大声で「満員になりましたから皆起きて下さい」とどなったので寝ていた人は皆驚いて起き上った。そのとき彼の人は悠々と歩いて行って、一番気持のよさそうな席へすわり込み、すぐ居眠りを始め出した。僕は思った――こういう人こそ今の世の中では一番成功するひとなんだ――他人のいうことを気にしていたり、どうしたら他人の邪魔にならないだろうか、こうしていたら他人に心配を掛けずにすむだろう等と小さいことまで考えている者はやがて自滅の運命をたどるであろう。
三島の附近から夜あけの富士が見え出したので車中
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