押し出す雪崩は主に、下の方は南側の岩壁のある谷から、上の方では正面の岩壁からである。後者のものはほぼ谷全体にひろがるので油断がならぬと思う。大体冬期は降雪と降雨の日をさければめったにやられることはないと思うが、なるだけこの谷では北側の尾根に沿った方がよい。この谷の下の方は、北側に溝が一本通っているが、両側の尾根までは随分広く、すばらしい谷だ。僕は上部正面の岩壁の下で北側の尾根へ取付いたが、そのとき登った谷等はステム・ボーゲンに理想的なところだった。この尾根は岳樺の疎林でとても気持のいいものだった。二千二、三百メートルのところをスキー・デポとした。そこから本尾根までは、岩場はなし雪もやわらかく平凡な尾根伝いだった。本尾根の取付きにも問題になるような雪庇はなかった。冷ノ池《つべたいけ》附近には相当大きな雪庇が東側へ出ていたが、三月頃ほどのこともなさそうだし、つらくてもタンネの中を行けば心配はない。ここから鹿島槍の頂上までは長いことは長いが、風が強いだけで悪場はなし雪もかたく楽だった。頂上には東京商大の人々が立てた岳樺の小枝があって、それに一行の名前を書き入れた中山彦一様の名刺がバットの空箱
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