に入れて挟んであった。僕は無断で失礼だと思ったが、ちょっと嬉しかったので名前をそれに小さく書かせてもらった。そんなわけで濃霧で何も見えなかったが、頂上には立ったに違いないと思っている。帰りは下りなので他の尾根等へ迷い込むようなことはないかと心配したが、迷い込めそうなところはなかった。冷ノ池あたりへ引返したときはもう暗かったので西俣へ下る例の尾根もよくわからず、少々迷った。スキー・デポから北俣と西俣の出合まで八〇〇メートルの下りは、谷全体がとてもすばらしい粉雪で、暗くなかったらいくら僕でも三十分とはかからなかっただろう。また一ノ沢あたりもなかなかいいところだった。
鹿島村では狩野久太郎様のところへ泊った。とても親切な家だったし、山小屋と違うので二十時間の登行もこたえなかった。それはすぐ後の二月十三日に寝具さえない畠山の小屋から針ノ木岳と蓮華岳に往復したんだし、二月十五日には上等の山小屋だったが、猿倉から白馬岳へ登って神城《かみしろ》駅まで歩けたくらいなんだから。天候は一番悪いときだったが、まず二日に一日は山に登れると思った。しかし完全に晴れた日は、僕のいた二月八日から二月十五日までのあ
前へ
次へ
全233ページ中154ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング