てから輪カンジキにした。一カ月ほども烏帽子にいたという猟師が一、二日前に下ったので、輪の跡が残っていたが、新雪と風ではっきりしない。猟師が右の方の谷へ下って、また引返しているのだが、冬期はその谷を下るのかと思って、悪いところを下り随分時間を浪費した。初めはいちいち引返したが、そのうち元気もなくなり、迷ったまま夏道より南の尾根を下って行った。そのうち尾根よりも夏道とのあいだの谷がよさそうなのでそれへ入った。この谷は一月五日の雨に、両側から物凄く雪崩が出て、氷のようになっていたので、輪カンジキでは辷り落ちたりした。アイゼンではまた、六日の新雪があって、ひどく潜るところがあった。この谷は悪場はなかったが、凄い雪崩道である。幸いこの日は風もなく、二〇〇〇メートル以下は霧だったので、雪崩は出なかった。だいぶ下ってから、滝があったので、また右の尾根へ取付いたが、藪が多く楽ではなかった。それに下の川の音を滝だと思って右へ右へと巻いたが、いくら巻いても音がするので、思い切って、尾根のように広い谷があったので、それを降りて行ったら難なく濁《にごり》の川原へ出ることができた。冬期でも、烏帽子へは夏道を上下
前へ 次へ
全233ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング