無事に悪場を過ぎてから、対岸で見ていた古田氏に御礼を言って別れた。それからは地図と同様平凡な道であった。しかし、水も無いような川を渡るのに、何度もスキーを脱いだりして時間がかかった。大多和峠から見た薬師岳は、とてもすばらしい姿だった。峠の下りは上の方は辷ったが下の方は傾斜が緩く、かつ晴天になったため、あまり辷らなかった。西谷の流れは地図に書いてある上流の方の橋を渡った。これは大きな橋で今後も落ちることはないと思う。東谷はだいぶ深いように聞いていたので、防水のズボンをはき、防水のノールウェ・バンドをかたく締めて行ったが、雪の少ないためか、あるいは寒さのためか、深さは五寸くらいしかなく、川端も一間くらいで、徒歩は簡単だった。真川峠(一八〇二メートル)の登り口は雪が少ないので、道がよくわかった。この尾根は地図と同様、スキー滑降に理想的な傾斜で、藪も少なく素敵だと思った。尾根も一本で、迷うことなく頂上に着いた。頂上は広い、のんびりした雪原だった。頂上から右へちょっと巻くように下らねばならぬのを、まっすぐ下ってみると小屋がわからず、ちょっと驚いた。この下りはスキーが下手なので、輪カンジキで下る予
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