悪くされたことは、思わずにはいられません。今なら冬の立山が何だと思っていますが、あの頃にはほんとに心細くて、経験の深いあの人等についていないと危険だとさえ思い、できるだけあの人等の気を悪くすまいと思っていましたから決して反抗的にしたのではなかったので、自ら慰めてはいますが――。帰りは追分附近から雪が降り出し、皆で登ってきたシュプールをただ一人漕いで弘法に帰りました。小屋の内に入って福松君と二言三言話しているうち、威勢よく声を上げて笑いながら帰ってこられました。そして君のスキーはまるで辷らなかったじゃないかと言う窪田氏の声と、よし覚えておれ急斜面に行ったらうんといじめてやるからと言う田部氏の大きな声等聞えました。それから小屋の中は急ににぎやかになりました。明日は元旦だが、もしお天気がよくなったら登って行かねばならず、ゆっくりお正月気分を味うことができぬと思われたのか、この夜持ってきた餅を炊いてお正月のように賑かな夕食をされました。それで兵治君が僕にも餅を分けてくれました。そして言うには初め自分はこういう者ですから、なにとぞよろしく御願いしますと言って挨拶すればよかったんですよ、まるで知ら
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