が、今頃はこんな日でも鏡石辺から上は必ず強い風が吹いていて危険だ、など話しました。福松君は風邪を引いていて僕が薬を上げたが、いつもより元気が無かったようです。明るくなってから田部氏と福松君の他は一人ずつスキーの練習に出かけました。小屋より二町ほど西で小さい谷に面したところです。土屋氏が一番熱心のようでした。僕は殆んど見ていて一緒に辷ることは稀でした。昼頃から霧が晴れ鏡石辺から見えるようになったので、福松君を残してみんなで板倉氏の霊を弔いに松尾峠へ行くことになりました。それで僕もついて行ったのですが、だまって挨拶もしないでついて行ったのはいけなかったのです。うっかりしておったのですが、変な奴だと思っていられたようです。追分の小屋でちょっと休んで、いつも僕等が温泉の方をのぞくときに行くようなところから右へ急な斜面を登って松尾峠に着きました。終始兵治君がラッセルしてくれました。このとき一度でも僕が代っていたらどんなにあの人等の気持を親しくしていたか知れないと思わずにはいられません。峠の上でちょっと休んでこれから帰ろうというときになって田部氏が僕に、僕等は僕等だけで写真をとりたいから、すまない
前へ 次へ
全233ページ中116ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング