それからも桑名までは雪が少なくて夏道より他はブッシュでとても歩けず、ブナ坂や刈安峠はスキーを脱いだくらいです。しかしあの人等の走跡があっただけに、迷うこともなく、ラッセルもしないですんだわけですから、どんなに楽だったか知れません。このことについては僕は、前にシュプールをつけてくれた人等に対して感謝の念を持ったのみで、その後ときどきこのような立場にある単独登行者に対して、悪意としか思われないほどの非難を聞きますが、そんなことは全く思いおよびもしませんでした。
小屋に着いたときは四人の人等はみんなストーブのまわりで、スキーや山の話で夢中だったように思います。福松君と兵治君は炊事場の囲炉裏にあたって何かしていました。僕はそこへ行って御馳走になりながら、藤木氏や津田氏の話をしたように思います。夜は僕は囲炉裏の側で兵治君を真ん中にして福松君と三人で一緒に寝たのでした。四人の人等はいつも小屋の中に張ったテントに火鉢を入れて寝られたようです。
三十一日の朝は霧が深く雪もチラチラ降っていました。福松君が目を覚して天気はどうかと聞いたので、大変な霧だと言ったら、それじゃ駄目だ、三月頃なら頑張ってみる
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