わず、松本で十二時まで待たされた。僕はパートナーとしては恵まれないようだ。
[#地から1字上げ](一九二九・一一)
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一月の思い出

    ――劔沢のこと

 一月のことを思い出すのは僕には耐えられぬほど苦しい。だがそれをどうしても話してしまわなければ、僕は何だか大きな負債を担《にな》っているような気がしてなりません。偶然同じ小屋に臥し、同じ路を歩いた六人の Party と一人の Stranger とのあいだに醸成された感情、そんな些細な、つまらないことをと言ってしまえばそれまでですが、少なくともあのときの僕の不注意と親しみの少ない行動とを思い出すと、その貧しい記憶の残り火を過去の灰の中からかき立ててここに記すことは、僕としての義務であり、またそう努力することが、今はない六人に対する心ばかりの弔意であるとも思われるのです。
 ちょうど去年の暮の三十日の朝、雪の立山に魅せられた僕は、いつものボロ服姿で千垣に着きました。芦峅の佐伯暉光氏のところに寄ってあの人等が先に登られたと聞き少なからず心強く思ったことです。雪は藤橋でもわずか五寸ほどで、材木坂の大部分はスキーをかつぎ、
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