でいる。白馬の頂きに立ったとき、初めての夏山入りの思い出(蓮華温泉からこの頂きに立ったとき、こんなすばらしい山が日本にもあるのかと驚き、劔を見て槍だと思った頃のこと)が浮んでくる。頸城《くびき》の山もなかなか素敵だ。スキーはなくても下りは早い。スキーを置いたところから少し下ると猿倉の小屋が見つかった。神戸徒歩会の人がトリコニーの鋲靴を履いた案内を連れている。案内に白馬の頂きで黒姫山がわからなかったと言ったら、そんなことはない大雪渓の辺からズッと見えると行った。これではトリコニーが泣きはしないだろうか。そして湯を一杯貰うのさえ礼を言ったが、翌日白馬館で薪代を取られた。
[#ここから18字下げ]
四月二十九日 晴 猿倉八・〇〇 小日向頂上九・四〇 猿倉一〇・一〇―一一・〇〇 四谷一・三〇
[#ここで字下げ終わり]
天気がいいのでスキーを履いて小日向山に登ってみた。白馬連峰を見るのにいいところだ。帰りは雪が溶けて水分が多く、スキーがあまり辷らぬので嬉しかった。辷ると転ぶからだ。徒歩会の人は二日ともノビニズムを研究していた。帰りに徒歩会の人と附合いをしたら、自動車が二十分遅れて電車に間に合
前へ
次へ
全233ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング