くなり一カ月ほど癒らなかった。

[#ここから18字下げ]
二十九日 曇 六・〇〇発 九・三〇―一〇・三〇一ノ俣 六・〇〇上高地温泉
[#ここで字下げ終わり]
 一ノ俣に寄って上高地まで下るのに太陽がときどき現われるためスキーに雪がつき辷りが悪く、かつ昨日の疲れでなかなか時間がかかった。また一日中風が強く雪もときどき降った。

[#ここから18字下げ]
三十日 曇 七・〇〇発 七・五〇水取入口 一・三〇奈川渡
[#ここで字下げ終わり]
 例の踵が痛み思うように歩けなかった。松本四時半過ぎの汽車に乗るため奈川渡より自動車を駆って先を急いだ。


    B 立山

[#ここから18字下げ]
二月九日 曇 九・二〇千垣 一〇・〇〇芦峅 一〇・一五藤橋 二・二〇材木坂頂 四・〇〇ブナ坂避難小屋
[#ここで字下げ終わり]
 藤橋の手前でスキーを履く。積雪二尺。例の雪崩の出るところはちょっと悪い。あの附近は高山と違って真冬でも温度が高く、かつ南斜面だから太陽の直射でよく雪崩れる。材木坂より上は積雪量が相当にあってどこでも楽に歩けた。山毛欅坂もスキーによい斜面となっていた。霧が巻いてきたので山毛欅坂避難小屋に泊る。気持のいい小屋だ。炭俵がたくさんあり、その中に入っていると温かい。アルコールは便利だ。コッヘルにて餅を炊く。とてもうまい。また干柿もいい。この附近積雪量五尺くらい。

[#地から1字上げ]十日 雪 七・〇〇発 〇・〇〇弘法小屋
 雪が降っている。しかし風がないので幸いだ。弘法附近は積雪七尺くらい、南側の下の窓より入る。一月より寒いのか炊事場の水は表面が凍っていた。例の炉辺に寝る。午後七時頃よりときどき風の音を聞く。

[#地から1字上げ]十一日 雪 滞在
 何もすることがないので入り口の戸を開けて道を掘ってみた。すぐ埋ってしまうので中止。夜中より吹雪となり物凄く風が唸っている。

[#地から1字上げ]十二日 吹雪 滞在
 朝になっても吹雪は止まず、いつまでつづくことかとちょっと心配になる。一月福松が口癖に雪の立山、雪の立山と言っていたが、ほんとにその感じを深くする。しかしさすがの吹雪も午後五時頃よりおさまり、その夜は寂莫。静かな雪が落ちているのみ。

[#ここから18字下げ]
十三日 晴 八・四〇発 一・〇〇室堂 二・一五一ノ越 三・〇五立山頂上 四・一〇室堂 六・一
前へ 次へ
全117ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング