五弘法
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朝起きて見ると白い雲が走っていて、ときどき青空が見える。雪もチラチラ降っている程度なので大丈夫と思って出かける。この雲は二〇〇〇メートル以下のもので、鏡石より上は快晴であった。思うにこれら雪雲は雪線について上下し、たいてい春秋は山頂附近に、冬は山麓に止まり、その附近に多く雪を降らすのであろう。天狗平の上は余り高く巻くと雪が堅く不愉快だ。室堂附近の積雪量は、一月と変らぬ。それとも風が強くてこれ以上は吹き飛ばされるのか。一ノ越から頂上までも一月と同様簡単に登れる。黒部谷をへだてて針ノ木―鹿島槍が雄大に見える。劔岳もまた凄く聳えている。風が強くなかなか寒い。写真を二枚撮って下る。
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十四日 晴 六・四〇発 一一・三〇―〇・一〇藤橋 二・三〇―三・〇〇芦峅 三・三〇千垣
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藤橋で水量を計っている組についていた芦峅《あしくら》の案内らしい人が僕に向って、君が一人で登ったので大変心配したと言った。僕の行動がまるで知らない人にまで心配をかけたのは全く恐縮の次第だった。それから発電所の方へ渡って例の雪崩の出るところを避け、また右岸に返って芦峅に下った。
C 奥穂高・唐沢岳・北穂高
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二月二十日 快晴 六・〇〇島々 一一・二五沢渡 二・〇〇中ノ湯 四・〇〇―四・五〇大正池取入口 五・五〇上高地温泉
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温泉のお爺さんは少し身体の具合が悪かった様子だが、飯を炊いたりしているうち、元気になり、僕が神戸から持ってきた餅を少しあげたら、自分は餅が一番好きだと言って、非常に喜んでくれた。そして大阪三越の古家武氏が二月の初め、一人で槍を登ったと聞き、ちょっと嬉しくなってしまう。
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二十一日 快晴 六・三〇発 一〇・四〇―一一・〇〇横尾岩小屋 〇・〇〇唐沢出合 二・〇〇―二・二五池ノ平 三・四〇―四・〇〇横尾岩小屋 五・三〇一ノ俣
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横尾岩小屋に荷物を置いて唐沢谷偵察に行く。なかなかすばらしい谷だ。明るいうちに辷って帰るのは惜しいが、余り疲労するといけないと思って池ノ平から引返す。傾斜は緩く、雪も柔かで気持いい。
[#地から1字上げ]二十二日 雪後晴 滞在
午後雪がやんで常念や大喰《おおばみ》が
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