した。川を下って川井で河内の方へ他の川を遡って行きます。気持の悪い雲が一一〇〇メートル以上を包んでしまい、もしや雨ではないかと不安です。乗鞍は麓から一〇〇〇メートルの線くらいまで草原で道がなくとも楽に登れます。ここに防火線が設けられてあります。この上も植林してありますから割合楽です。次から次へと低い雲が山を廻って走り去って行きます。一二〇〇メートルくらいからスズ竹の中へ入って登って行きます。ところどころ残雪と大きな木があります。オオ雲が晴れました。三室山の頂きが見えます。午前十時半、俚称ショー台の頂上へ登りました。国有林の杭が打ってあります。そこは実に海抜一三五八メートル兵庫県第二の高峰乗鞍の絶頂であります。そして三角点はそのまま山の高さを保っています。オオ見えるではありませんか、氷ノ山が、真白い槍が、鷲羽と白馬が、扇ノ山―鳥取の群山が、大渓谷、大森林、大竹森がーとても雄大な眺望です。私は杭を打込み万歳を三唱しました。そしてここから縦走する予定でした海抜一二四四・二メートルの俚称三国ヶ山は大森林やスズ竹の突破がなかなか苦しいのであきらめて下山することにしました。乗鞍よ、再度相見ることはいつになるだろうと、別れを惜しみながら下って行きます。そして河内へ帰りました。ここから峠を越して国道へ出ます。この峠に登る道は地図と変って左の谷へ入ります。しかし同じ尾根へ登りました。この道は荒れ果てていますが、なかなか深山幽谷的なところです。去年十二月三十一日雪を眺めて歩いたあの国道へ出ました。そして引原川を上って行きます。午後六時頃戸倉の宿へ着きました。もし三国ヶ山へ登っていたらここまでくるどころか、山中へ一泊しなくてはならなかっただろう等と思いながら夢の世界へ沈んで行きました。
五月一日、午前六時宿を出て、兵庫焼へと深い谷を登って行きます。ここの谷は数年前木を切り出した道が名残りをとどめています。それで大したラッセルもせずに大雪渓につきました。四ツ這いになって左の谷へ入って行きました。そしてスズ竹の尾根へ登って北へ縦走し午前九時半頂上へ着きました。そこらの落葉を取り除けてついに三角点を探し出しました。オオこれが海抜一二一六メートル四の俚称赤谷の絶頂兵庫焼の絶頂です。私は万歳と叫ばずにはいられませんでした。北には穂高から槍への残雪は近いだけ一層綺麗に見えます。右へ但馬の妙見が、左
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